発明者が実際に行った実験は数化合物。一方、権利化を目指す化合物は、その数化合物を含む多数の化合物です。この差をどう埋めるかは、化学・バイオの特許実務でいつも悩むところです。
今回は、私自身が発明者として出願した特許をご紹介します。出願したばかりで未公開のため、考え方の概要のみお伝えします。
【2026年出願(未公開)/発明者:大杉 卓也】
発明の概要:どの実験を追加すれば、権利を広げられるかをAIで提案する
本出願は、逆合成解析(目的の化合物から、その作り方をさかのぼって探す計算手法)やAIによる予測を使って、「より広い権利を取るために、どの化合物・抗体の実験を追加すればよいか」をクライアントに提案する方法です。
課題:実験結果のない実施例では、広い権利は認められない
特許では、実際に実験した化合物だけでなく、その周辺の化合物まで含めて広く権利化したいものです。しかし、広く請求するほど、その範囲を裏付ける実験結果が求められます。
計算で作った候補を実施例として明細書に並べても、実験結果がなければ、記載要件を満たさないと指摘されます。 結局、必要なのは実験による裏付けです。
問題は、「どこまで実験すれば、どこまで広い権利を取れるか」が、これまで経験と勘に頼っていたことです。
この発明でできること
- 低分子化合物:権利化したい範囲に含まれる化合物の作り方を計算で求め、追加で合成・評価すべき化合物を提案します。
- 抗体:1か所ずつ変えた変異体の実験結果をもとに、複数か所を変えた変異体について「機能が保たれそうな範囲」を推定し、その範囲を裏付けるために最低限必要な実験を提案します。
- 抗体薬物複合体(ADC):抗体部分と薬物部分に、それぞれの方法を組み合わせて使います。
なぜ知財として重要か
この方法を使うと、クライアントに対して、
- 「この範囲まで権利化するなら、この実験を追加しましょう」
- 「実験をここまでに絞るなら、権利範囲はこのくらいが目安です」
と、権利範囲と実験量のバランスを具体的にご相談できるようになります。
まとめ
計算やAIで実施例を増やすだけでは、広い権利は取れません。大切なのは、広い権利を裏付けるために、どの実験を追加するかです。本出願は、その判断をAIで支えるための発明です。審査はこれからですので、経過は公開後に改めてご報告します。
「この実験データで、どこまで広い権利を目指せるか」というご相談は、お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
※本記事は出願内容のうち、公開に支障のない範囲を概要として紹介したものです。