特許2 中国BioAi特許 CN 118230822 B:生物中の特定の機能を有するタンパク質を探索する方法

最近、中国のBioAi特許についての問い合わせが多いです。そこで、Nature Biotechnology(November 2025)の”Patenting biopharmaceutical inventions that use artificial intelligence in China”で取り上げられている中国特許権について報告します。

発明の概要

この発明は、生物の中から特定の機能を持つタンパク質を効率的に探し出す方法です。従来のアミノ酸配列による比較だけでなく、タンパク質の「立体構造(形)」に着目した点が特徴です。

発明の方法(7つの工程)

  1. ゲノム解析とタンパク質予測
    対象生物のDNAを収集・抽出し、ゲノムシーケンシングとアセンブリを実施。さらにタンパク質のアノテーション(注釈付け)を行う
  2. 既知タンパク質との配列比較
    UniProtデータベースを使って配列アラインメントを実施。既知タンパク質と一致する配列を同定し、AlphaFold Protein Structure Databaseから対応する立体構造をダウンロード
  3. 未知タンパク質の構造予測
    データベースに完全には一致しないタンパク質について、ローカルにインストールしたAlphaFoldソフトウェアで構造予測を実施
  4. 独自データベースの構築
    得られたタンパク質構造ファイルを整理・リネームし、その生物固有のタンパク質構造データベースを構築
  5. 全構造比較の実施
    US-alignソフトウェアを用いて、構築したデータベース内の全タンパク質について構造アラインメントを実行。特定のターゲット(お手本)タンパク質と類似する構造を持つタンパク質を同定
  6. 候補タンパク質の選択
    構造アラインメント結果に基づき、ターゲットタンパク質と類似構造を持つタンパク質を選択
  7. 実験による機能検証
    選択したタンパク質を実際に発現・精製し、機能検証を実施

特許庁からの拒絶理由

特許庁の審査官は、当初の出願内容に対して「進歩性なし」と判断しました。その理由は以下の通りです。

指摘内容(1)

  • タンパク質の機能は「構造(形)」によって決まることは既知の事実
  • 配列が似ていなくても構造が似ていれば、機能も似ている可能性がある
  • 先行文献も、配列と構造を組み合わせてタンパク質機能を予測することを開示している
  • したがって、構造比較によって機能を予測する発想は当業者にとって容易

指摘内容(2)

  • 未知機能タンパク質を予測する際、データベース中の既知機能タンパク質の構造と比較し、構造が類似するものを選別することは通常の手法
  • どの既知機能タンパク質を選ぶかは、当業者が試験ニーズに応じて通常選択すればよい

つまり、単に「構造が似ているタンパク質を選ぶ」というだけでは、発明として十分な特徴がないと判断されました。

出願人の対応:独自の選抜基準VD値の導入

この拒絶理由を克服するため、出願人は独自開発した「VD値」という具体的な数値基準を請求項に組み込みました。

VD値とは

VD値は、タンパク質構造の類似度を示す特徴値で、以下の特性があります。

  • 0に近いほど構造が類似している
  • 以下の3つのパラメータから導出される:
    • TM1、TM2(TM-score):タンパク質長で正規化した構造の全体的一致度。範囲は(0~1)で、1は完全一致。TM-score≧0.5の場合、同一のグローバルトポロジーを共有
    • RMSD:2つのタンパク質構造の二乗平均平方根偏差(原子位置のズレ)。0は完全一致

ここで重要なのは、VD値が0に近いほど、そのタンパク質対の構造が似ているということです。

特許請求された方法

特許として認められた方法は、上記の7つの工程に加えて、以下の独自の候補タンパク質選抜基準を含んでいます。

具体的な候補タンパク質の選抜基準

TM1、TM2、RMSD値、およびこれら3値から算出されるVD値に基づいて順位付けを行い、以下の基準で候補を選択します。

【パターン1】VD値が0.85未満のタンパク質対が存在する場合

構造がかなり似ているタンパク質が見つかった場合です。

  1. 最小VD値に対応するタンパク質対から得られるタンパク質を、主たるスクリーニング結果とする
    • 最も構造が似ているタンパク質を第一候補とする
  2. VD値が最小VD値との差が0.1未満のタンパク質を、候補タンパク質とする
    • 第一候補とほぼ同じくらい似ているタンパク質も候補に含める

【パターン2】すべてのタンパク質対のVD値が0.85より大きい場合

構造の類似度がそれほど高くない場合です。このときは、さらに詳細な判断を行います。

  1. TM1またはTM2が0.6より大きく、かつRMSDが5未満のタンパク質対が存在するか確認
    • 全体的な構造は似ており(TM-score≧0.6)、原子レベルのズレも小さい(RMSD<5)タンパク質を探す
  2. 存在する場合:RMSDの小さい順に最大5個を候補タンパク質として選択
    • 原子位置のズレが小さい順に、上位5個までを候補とする
  3. 存在しない場合:当該生物中に特定のターゲットタンパク質構造に類似するタンパク質は存在しないと判断
    • 機能的に類似したタンパク質は見つからなかったと結論づける

この具体的で客観的な選抜基準があることで、単なる「似ているものを選ぶ」というアイデアから、実用的な発明へとなり、特許として認められました。

この発明の価値

実証された成果

本発明の実施例では、以下の成果が実証されました。

  • 配列相同性がわずか38.9%*と低い(従来法では見過ごされる可能性が高い)
  • しかし構造類似性は高い(VD値:約0.228)
  • 実際に既知タンパク質と同様の酵素活性を示した(実験結果あり)

従来法との違い

従来のアミノ酸配列の比較だけでは、配列の類似度が低いため機能的に類似したタンパク質を見逃してしまう可能性がありました。本発明は、独自のVD値という客観的な数値基準と明確な選抜ルールを用いることで、配列類似度が低くても構造が類似し、同じ機能を持つタンパク質を効率的に発見できるようにしました。

まとめ

この特許取得事例は、単なるアイデアではなく、具体的で客観的な数値基準(VD値)と明確な選抜ルールを示すことで、進歩性が認められたケースです。


留意事項

実施例で示された配列相同性38.9%、VD値約0.228という具体的な数値が、発明の有効性を裏付けています。詳しくは、本発明の方法の効果をwet実験で検証しております。

本明細書には実際のウエット実験工程「選択したタンパク質を発現、精製し、機能検証を行う工程」が当初の請求項1から含まれていました。

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